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「世界のどこかで」


第四話「束の間の平和 前半」


カズマもとい、ケイト率いるグリーンズノーマル軍がリーグル国の先発隊を撃破して3日の朝。
姉妹と貴族の娘の治療を終えたカズマとケイトは疲れからそのまま眠っていた。
その間にお城には、地方の防衛をやっていた将軍が戻ってきている。
カズマがデュッセルに頼んだのだったのだ。
今後の方針を決めるため、地方の主要防衛地を守っている名将と呼ばれる2人を呼び戻したのである。
現在主要の都市5つ、首都を占めると6つの内、3つが敵の攻勢に耐えられず陥落し、防衛していた将も兵も殆どが死亡し瓦解した。
その敵の大攻勢の中、その敵を食い止めている名将が二人。
一人の名を「ラリク・ドーリュウ・サキル」片砕と呼ばれる、豪腕の猛将である。
その力は片腕で放った魔法で大岩を粉砕し、もう片方の腕で人を叩きのめす。
性格も厳しい人柄ではなく大らかなオッサンで兵士達にも人気が高い。
防衛の際には自ら先頭に立ち迎撃をして防衛ラインを超えさせることは一度もなかった。
又一人の名を「エーリム・ヨウオ・レイシーン」星と呼ばれる、知識の将である。
その彼の戦略はまるで頭上で輝く数多の星が見ているように敵の動きを察知し、殲滅をする。
だが、頭脳だけでなく、戦の腕も中々のもである、彼の知識と相成ってその腕は敵の攻撃を一度も受け止めることなく敵を倒す。
しかし、性格は知識の割りに硬くなく柔軟で人当たりの良い人であり、兵士からも慕われている。
防衛の際には敵は動き出せばその時点で敗北が決定すると言われ、ただの一度も敵の殲滅に失敗は無し。

この二人の名将が帰還した。

「おー帰ったぞ!! 我が祖国の象徴、我が故郷よ!!」
「相変わらずですね、ラリク。」
城の前には兵士が参列して礼を取って、その真ん中で笑い声とその笑い声に語りかける声がいた。
そう、名将と名高き「ラリク将軍」と「エーリム将軍」である。
「なにいってんだよ、久々の故郷だぞ!! お前は嬉しくないのか?」
ラリクは両腕を広げながらエーリムの前に立ち顔をしかめる。
「いや、私も嬉しいよ。 でも兵の前だろ、もう少し威厳を、君には必要かと・・・。」
そういうとラリクはエーリムの横に立ち肩を掴みながら。
「あっはっはっはっは!! お前も相変わらずだな!!」
エーリムは少し迷惑そうに少し嬉しそうにしながら城の中へ足を進めていった。


「ふぁー・・・ねむ。」
そう言いつつ横で寝ているケイトに毛布をかけ直して今日来るであろう将軍達への説明を準備するため部屋を出て行く。
しかし、思ったよりも疲れていたようだ。
一時間ぐらい寝入っていたようだ。
「現役退いてから、結構経つからな。」
首を右左にまわしながら廊下を歩いていると。
ちょうど曲がり角からシャールとデイにグリイが料理を運んでいた。
顔があったので
「よぅ、おはよう。」
するとシャールは驚いたようにこちらを見て。
「なんだ、もう起きたのか?」
「カズマさん、もういいんですか?」
「よう大将。」
三者三様に挨拶をしている。
俺はおもむろに、料理の一つをつまんで。
「まあ、今日は将軍達が来るらしいから、ノンビリしてられないんだこれが。」
そのまま、横を通り過ぎデュッセルが待っている部屋に急ぐことにした。
後ろからなんかシャールが叫ぶ声が聞こえるが、無視していこう。
城内つてに会議部屋に行くのはちょっと遠回りになるので、中庭を通ることにしよう。
そう思って窓を飛び出して、2階下の中庭に着地する。
すると
「うおっ!!」
直感的に横に転がる。
で、着地地点に爆音が響いて地面がえぐれている。
おいおい、なんだいったい?
受身を取って体制を整えようとすると、さらに前方から氷の棘が飛んでくる。
量が少なかったので前方に倒れこむようにその棘の間を縫って発射地点と思しき場所に駆ける。
「ほう。」
「くく、いい小僧じゃないか。」
その場所には、オッサンが二人こっちを眺めて笑っている。
見た感じ、見事な服装をしている。
多分例の将軍達だろうと直感していると。
「突然の不意打ち失礼した、これから君に戦いを挑む。」
「あの爺さんを倒したんだってな!! 俺達二人ぐらい掻い潜ってもらわんと、お前の指示には従えねぇ!!」
なるほど、そういうことか。 なら、少し気合入れるか。
俺は駆けながら二人の動きを見ていると、大柄のオッサンの方がこちらに近寄ってきて片腕で大剣を振り降ろしてくる。
もう片方のオッサンは動かずこちらを見ている。
「もらった!!」
辺りに重低音が響く、ラリクの大剣が地面に突き刺さっている。
だがそこにカズマの姿はなく、ラリクは楽しそうに目を横にやっていた。
「わざわざ俺に剣に手のひらを当てた反動で回避するとは、器用だな。」
「いや、あれを受け止めたら死ぬって。」
普通に受け答えをすると、そのままラリクとの戦いが始まった。

「・・・なるほど、かなりの熟練者だな。」
その様子を近場でみているエーリムは呟いた。
彼は敵の行動パターンを熟知した上で、戦いを行うタイプなのだ。
といってもこの二人が同時に同じ敵を攻撃したことがあるのはデュッセル老のみ。
簡単に言えばそれ以上の相手と戦ったことがないのだ。
二人とも単身で負けるとこがない為、お互い様子を見ることにしたのだ。
なぜいきなり、この平民の青年に攻撃を仕掛けたかと言うと。

「ああっ、小僧の作戦に従えだと!?」
楽しい凱旋のあと、懐かしき我らが恩師デュッセル老にこう言われたことが始まりだ。
ラリクは思ったとおり憤慨し
「ふざけるな!! 一度マグレの勝利を掴んだだけだろう!! そんなわけの分からん小僧に従えだと!!」
言っている意味も感情も理解できる。
しかし、私も少し気になることがあったので。
「同じです、デュッセル様。 得体の知れぬ小僧には従えません。 知識があるのは認めますが。」
私はデュッセル老の顔を見つめながら言った。
そして言葉を続ける。
「元々あれは姫様が考案なさったのでしょう。 伝令からそう聞いています。 いきなり戦に参加した傭兵風情の命令を聞く気にはとても。」
「そうだ!! エーリムいいぞ!!」
よこでラリクが騒いでいるが無視してデュッセル老を見つめていると。
「ああ、まだ言ってなかったな。」
いきなり軽く咳き込んで口を開いた。
「あの作戦は姫様ではなく小僧の案、そして私が素手の小僧に斬りかかり負けたのだ。」
デュッセル老は両手を挙げヤレヤレといっているが。
ラリクは目をまん丸にしてて、たぶん私も同じだったのだろう。
そして驚いている私達にむかってデュッセル老はこう言った。
「うむ、お前達の意見ももっともだ、なら一つ手合わせをしてこい、心根と腕が伺えよう。 それでさっきの話を考えてくれ。」
そう言って去ろうとするデュッセル老に向かって、私は聞いた。
「不足だと思えばそこで切り捨てますが。」
すぐに返答が帰ってきた。
「好きにしろ。」

偶然が重なっただけだと思っていた、ラリクの一撃で終わりだと思っていた。
だが・・・
「なんだあの小僧は。」
目の前に広がる光景はとんでもないものであった。
剣と魔法を連発するラリク。
その横で飄々と動き回る小僧。
ラリクには疲れが見えている、必死で小僧を目で追っているが、そこに攻撃を加える時にはもういない。
スピードは常人と同じ、なのにラリクが必死になっている。
不意に小僧と目が合った気がした。 小僧は笑みを浮かべその瞬間。
体全身が震えた。 キケンだ、あの小僧は。
「ラリク退け!!」
この声と同時にラリクが退き、私は今まで続けていた詠唱をやめ魔法を打ち込む。
片手で握れる杖を天にかざし。
「我が杖に集え、冷気の剣よ、いま目の前の敵を切り裂かん。 巨大氷塊剣!!」
距離を縮めずこれで終わりにする。
杖から数多の冷気が集い、10mは有ろう巨大な氷の剣が出来上がる。
この魔法は叩き潰すための大技である、天に杖をかざしたのは振り下ろすため。
剣は重過ぎるのだ、一度だけ振り下ろすことができる、重量で敵を圧壊し切り裂く技だ。
重さが感じられる状態になった時私はもう片方の手を添える。
小僧はラリクの火炎球をよけることで精一杯らしい。
流石、我が友よ。
「おおぉ!!」
そして私は両手に力を込め振り下ろした。

爆音が辺りに響く。
かなりの重量の物が落ちた時の音だ。
「ほお、あの技までだしたか。 カズマも多少てこずるといいが。」
デュッセルはカズマの心配などしないで、カズマから指示された物を集めていた。

「おっしゃーー!!」
オレはガッツポーズで喜んでいた、なまいきな小僧を完全に仕留めた!!
あれでは生きてはいないだろう。
止めを刺したのが俺では無いのが残念だったが。
しかし、あいつは変に動き回る奴だったなーと思っていると辺りの煙が風でながされていく。
エーリムが大技を落としたところは地面が陥没している。
死体もバラバラだろうと思ったのだが。
「・・・。」
エーリムは杖を振り下ろしたまま固まっていた。
「おい、どうしたよ?」
不思議に思って近づくと、エーリムがこちらに飛んできた。
「は?」
俺は慌ててエーリムを受け止めた、その途端腹部に強烈な一撃が叩き込まれた。
「グッ!!」
膝をついたとたん、腰に着けていた短刀が引き抜かれ首に押し当てられる。
その短刀の持ち主をみると。
「はい、これにて終了。」
小僧がヤレヤレといった感じでつまらなそうに言っていた。
そして俺達は負けた。

ふいー流石にやばかった。
俺は内心冷や汗を掻きながら辺りを見回す。
どこも陥没だらけ、威力がどれほど大きかったかがわかる。
先ほどのオッサンの氷の剣をどうかわして攻撃に転じたかというと。
もう一人の大柄なオッサンが放っていた火炎球が勝因となった。
なるべく着弾点ギリギリによって爆発と同時に10mはある氷の剣を持っているオッサンに文字通り飛んで近寄ったのだ。
助走なしで10mを縮めるにはこれしかなった。
ついでに、オッサンに一撃を入れて気絶させることもできた。
で、そのオッサンをもう一人のオッサンに投げ、そのオッサンを仕留めると。
大体こんな感じ、結局あんまり本気を出さなくても良かったってこと、この二人の実力はデュッセル爺さんよりは下だね。
オッサン達がようやく動けると思った以上に。
「うははははは!!! 負けた負けた!!」
「見事にやられましたね。」
明るく振舞っていらっしゃる。
もっと悔しがって難癖つけてくるかと思ったのだが、なるほど、いい人たちのようだ。
土を払って立ち上がると自己紹介をし始めた。
「俺はな、ラリク・ドーリュウ・サキル、ラリクでいいぜカズマ!!」
大柄のオッサンはニコニコしながら手を握ってブンブン振り回してる。
元気のいいオッサンだな。
そしてもう一人はある程度身だしなみを整え。
「先ほどの無礼お許しを、あなたの実力が見たかったのです。 私は、エーリム・ヨウオ・レイシーン、エーリムで結構です。」
なかなか、立派なお人らしい。
礼をとり、握手を求めてきたのでそれに応える。
一通り挨拶が終わったあと、疑問に思ったことを聞いてみる。
「えと、ラリクさんにエーリムさん、この件は爺さんの仕業?」
まあうすうすは感じていたのだが、予想通り二人は頷いて。
「おう!! 爺さんの提案だぜ!!」
「ええ、殺しても構わないと。 できるならと。」
「あの爺。」
俺は爺に対しての報復方法考えているとエーリムさんが話しかけてきた。
「すいません、本会議は明日でしたね。 少し用事があるので、今日はこの辺で失礼させてもらいますがよろしいですか?」
とくに彼を呼び止める理由が無かったので、OKをだすと直ぐに城下町の方へ駆けて行った。
「どうしたんだろ?」
横にいるラリクさんに聞くと彼は顔をしかめて
「エーリムの娘さんがな、流行り病でもう余命数ヶ月っていわれてんだよ。」
「そうなんですか。」
あの姉妹と貴族の娘みたいな子はまだまだ沢山いるようだな。
すこし間が空いてラリクが口を開いた。
「あーあー、少しつまらない話したな。 俺も久々に故郷を楽しむぜ、また明日なカズマ。」
やる気のなさそうに、背を向け手を振りながら去っていった。
「さて、爺に明日の予定でも話して部屋に戻って看病でもするか。」
自分もやることがあるのでその場を去った、少し時間が経ったあと中庭からシャールの声が響く。
「誰だ!! こんなに中庭荒らしたのは!!」
おーおー吼えてる吼えてる。
微妙に怖くなって中腰で廊下を歩いていると目の前からラリクも中腰で歩いてきた。
「おーカズマ、お前もシャールが苦手なのか?」
笑いながらいってくるので、あきれながら。
「ラリクさんもですか?」
二人でシャールの叫び声が消えるまで物陰に隠れていたのはヒミツの話だ。

「あー疲れた、そういえばロクに寝てないよなー。」
爺さんに文句と話をした後自室に戻りながら今までのハードスケジュールを思い出していた。
まだまだ、姉妹と貴族の娘の回復には最低でも一週間は必要だから、もうちょと椅子で眠る日々が続きそうだなー。
そう思いながら自室の扉を空けると、起きたケイトとその横で控えているシャールそしてケイトにニコニコしながら話をしている妹さん。
俺が入って来たことに気がついたのかケイトがこっちを見て
「あら、帰ってきたのね。」
「あほんとだー!!」
妹さんも気がついてこちらにトテトテ走ってきた。
「あっ。」
目の前でこけそうになったので抱え上げる。
「えへへー。」
嬉しそうにこちらを見つめると慌てて喋りだした。
「あのね、あのね、お姉ちゃんが元気になったの!! おしゃべりしたの!!」
わーわーと叫びながら嬉しがっている所申し訳ないが。
「・・・いや、あと一週間は二人とも絶対安静のはずなんだが。 マジの話? ケイトにシャール?」
ケイトとシャールにそう言葉を投げかけると。
「なにをいっている。 平民お前が病気をその薬草の調合で追い払ったんだろ、なら。」
「後は体力を回復させるだけだわ。 私の水でね。」
あー、なるほど、かなり魔法は便利なものらしい。
これなら薬草の研究は進まないな。
「で、二人は?」
ベットに二人の姿が見えないので聞いてみると
「そこよ。」
ケイトはやたら苦笑いで目線をやる。
そちらに視線を向けると治療した姉と貴族の娘が膝を付いて頭を垂れていた。
「なにこれ?」
ケイトに向かって言うとケイトは頭を抱えて。
「いいわ、見せてあげる。」
ケイトは一息つくとその二人に向かって声をかける。
「貴方達、もう頭を上げなさい。 私は貴方達を罰するつもりもないし、貴方達を助けたのは私ではなくこの男よ。」
そう言うと二人は頭を下げたまま。
「いえ、なんであろうとも、姫様のお手を煩わせたことは間違いなく大罪でございます!!」
「その通りでございます!! しかし妹はまだ幼い故、私の首だけでお許しを!!」
二人とも震えながら言っている。
死にたくないなら死にたくないって言えばいいのに。
ケイトは肩を下げながら。
「この通りよ。」
なるほど、この二人かなり国の意識が高いらしい。
ならば・・・
「ふむ、じゃあ二人とも名前言ってもらえるかい? 裁こうにも名前を聞かないと罪状を言い渡せないし。」
「カズマ、あんた何をッツ!!」
ケイトが叫ぼうとするのを制して。
二人が口を開く。
「はっ、失礼ながらこの国の将軍エーリム・ヨウオ・レイシーンの娘キュリー・レンラ・レイシーンでございます。」
「私は、この国のハリク村のエルといいます。」
へぇ、エーリムさんの娘か・・・あっ今頃大騒ぎだなエーリムさん。
偶然とは言え助けてしまったよ、エーリムさんに怒られないようにしないとな。
であの根性のある姉の方はエルっていうのかなるほどなるほど。
俺は内心ニヤニヤしながら、口を開く、息を吸い込む、その音が聞こえたのか二人がビクつく。
「二人とも!! ちゃんと生きる刑を言い渡す!!」
「は?」
「え?」
二人ともぽかんと口を開けている。
ケイトは後ろでクスクスと笑っている。
兎に角続ける。
「お前らな!! 俺が助けたの!! 姫も気にしなくていいっていってるの!!」
「でも!!」
「しかし!!」
「でもも!! しかしも!! あるかい!! ちゃんと生きるのが助かった者の罰!!」
そして、息を大きく吸い込んで。
「いいな!!」
「「はい!!」」
二人仲良く返事をした。

「さて、二人とも歩ける程度には元気なったな。」
横にいたケイトが
「多分そのくらいは回復してるはずよ。 で、なにかさせる気なの?」
二人の治療をしたケイトがそう言うと、俺は神妙に。
「お前ら、全員、体洗って来い、清潔になってこい!! 今回の病気は不衛生と栄養の不足だ!! 料理は俺が作るからその間に体でも綺麗にしてろ。」
「私も?」
ケイトが首をかしげながら言うもので。
「当たり前だ、この病に触れた奴全員体洗って来い!!」
そう叫ぶとシャールが後ろから
「それなら姫様、緑の清流にいかれてはどうですか? あそこなら精霊の加護で多少体調も回復するはずです。」
「え、いいの? あそこは王族だけしか。」
シャールはやや苦笑いをしながら。
「もう、ここまで姫様がお助けになったのです。 しっかり良くなってもらいましょう。」
そう言うとケイトはシャールに抱きつき。
「ありがとう、シャール!!」
「あわわわ、ひ、姫様!!」
シャールは恥ずかしそうにケイトから離れると、俺に向き直りこう言った。
「一つ問題がある。」
指を一つ突き出した。
「なんだよ。」
「護衛だ、いくら聖地とは護衛無しで行くには心もとない。 だれか女性の兵士で腕の立つやつを連れてこないとこの話は無しだ。」
おいおい、ケイトに条件だしてその条件を満たすのは俺かよ。
横のケイトは俺を見つめてきて。
「いるの?」
ええ、丁度俺が事情聴くために部下にした日本刀使いがいますとも。
「ここでまってろ呼んで来るから。」
俺は渋々部屋から出て兵舎へと向かった。

「甘いっ!!」
その掛け声と共に男が呆然と自分の手に握られていたはずの今は無い剣を見つめていた。
剣は空中に舞っており、その下に金髪の長い髪の女の子が立っている。
女の子は上も見上げず手だけを上に一瞬動かすと飛んで落下していた剣が握られていた。
「く、くそっ。」
男は悔しそうに女の子を見つめて叫ぶ。
「手前!! 女の癖にでしゃばんな!! 女は女らしく男の機嫌でも取ってろ!!」
女に負けた悔しさと彼女をどういう風に見てたかが分かる言葉を返してきた。
言い終わると、突然女の子は男の視界から消えて
「それ以上、口を開くな。 つい、剣を突き刺したくなる。」
真横に女の子は立ち、男の首に剣を突き立ててる体制で言った。
男はそこで沈黙して逃げていった。
彼女はそこで両手に握られた剣を握りなおし、周りを囲んでいる下品な男供に向かって吼える。
「ふん、私の裸でも見たかったらここで私を叩き伏せるのだな!!!」
そう、和真が部下にしたフールである。
今は刀が無いので支給の剣を握ってるがそれでも彼女は強かった、さてなぜこうなったかと言うと。
いきさつは簡単だ、この時代でもあまり女性兵士は多くは無い、いや殆どいないと言っていいだろう。
将軍や魔法使いなれば話は別だが、平民の女性が兵士は珍しいのだ。
やはり、体力や腕力、脚力などの差が歴然としているから。
で、フールは珍しくも腕の立つ女の人、兵舎では彼女だけが女性であった。
彼女は見た目はそこらの普通の女性よりは美人な方に入るらしく、同じ兵舎の男が彼女に襲いかかったのだが。
侍としての修行を積んだ彼女に叶うはずもなく敗北。
それから同じ目的の男が彼女をひん剥くために囲んでいる。
彼女のこれには慣れたもので、その場から逃げ出そうとせず、一人一人打ちのめしていった。
これが、一番よかった、誰かに泣きついても何もかわらなかった。
結局誰もが女として彼女を見て女として彼女を扱った。
「どこにいっても同じか。」
フールは剣を握り直して目の前に立つ明らかにフールの体が目的であろう男に突っ込んで行った。

さてさてフールはどこかね?
内心お爺さんに風に疲れながら兵舎を歩き回っていると一角に人だかりが出来ている。
気になってその輪に近寄ると、一人の兵士が気がついたのかこちらを見るなり大声で。
「おおっ!! 先の戦で敵将軍を捕らえた奇襲隊隊長だぞ!!」
そう言った途端。
「隊長殿、なまいきな奴がいるのです!! 叩きのめしてください!!」
「そうなんです!! 隊長なら、簡単ですよ!!」
「敗北を教えて、どっちが偉いか分からせてやるのです!!」
などと勝手に言って俺を輪の中央へと押しやった。
「なんだ、なんだ?」
途中で剣も渡されよく分からない状況に陥った。
フールを探しに来ただけなのだが。
そして目の前の輪の真ん中に金髪の凛とした少女が姿を表す。
「あ、いたいた。」
「カズマ? どうしてここに?」
お互いキョトンと驚いていると周りからヤジが飛んでくる。
「女ってのは男に使えてりゃいいんだよ!!」
「隊長にやられて、さっさと裸にでもなりやがれ!!」
「頼みますぜ!! 隊長!!」
あー状況把握。
オオカミの群れに羊いれちゃった訳か、あとでケイトに相談でもしてみるか。
そう考えていると目の前のフールがワナワナと震え始めた。
「カズマもやはりそう言う目で見ていたのですね!! ・・・少しは違うと期待したのですが!!!」
「へ?」
ヤジが俺の目的と勘違いしたらしい。
「今日は二刀流です!! この前みたいに手で受け止めることは不可能!! 覚悟してもらいましょう!!」
彼女が姿勢を低くして突っ込んできた。
「ちょっ!!」
慌てて剣を構えて彼女の一撃を受け止める。
しかし横から、左手の剣戟が来る。
「はあっ!!」
横なぎに俺の体を切り裂こうとするが。
咄嗟に受けた剣を剣戟が来る方向に移動する。
「なっ!?」
鉄と鉄がぶつかり合う音が響く。

私は咄嗟に飛び退いた、やはりこの男並ではない。
先ほどの意表をついた二連撃をあっさり剣一本で止めた。
一撃を受けてカズマの剣を封じたはずなのに、私の剣を受けたまま横へといなし、もう一つの剣戟を私の剣で受けさせたのだ。
「しかし、ここで辱めを受けるわけにはいかない!!」
私は再びカズマへと疾走する。
しかし、二度同じ動きが通じないらしく、目の前には彼の剣が真っ直ぐ飛んできていた。
「くっ!!」
額に当たるかどうかの時点で何とかかわした、下手すればそのまま串刺しだ。
少し動揺していた、相変わらず底の知れない男だと思っていると。
視界が反転した。
投げられたのだ、背中に強い衝撃を受け、両手に握っていた剣は弾かれた。
ああ、また負けた。
くそ、私は結局こうなる運命なのか。
「好きにしろ。」
そう呆然と応えると。
覆いかぶさっていたカズマは
「あいよ、好きにしますよ。 とりあえず、着いて来てね。」
私の上から退き私を立ち上がらせる。
周りからは、下品な男の叫び声が沢山聞こえる。
悔しさから、無言で彼に手を引かれていると先ほど私に負けた男が出てきてカズマに近寄ってこう言う。
「隊長飽きたらこの女俺にも回してくださいよ。」
いかにもいやらしい顔でこちらを見ながらそう言うと。
カズマが何か考えるようにして口を開く。
「やだね、これは俺の女に決定。 他の男にはやらん。 隊長権限だフールに手出したらぶっ飛ばすからな。」
結局私は物扱いか。

「やれやれ、まったくひどい目にあったな。」
フールを引き連れて兵舎を抜け出す。
「ん?」
同意を求めて言ったつもりなのだがフールから返事が無い。
どうしたのかと思い顔を覗き込もうとすると。
「カズマも私が欲しいのだろう、私に二度も勝ったのだ好きにしろ。」
そういうと服を脱ぎ始めるので。
「いや、興味ないっす。」
即効でフールの話を否定した。
「は? でも俺の女って。」
硬直したまま、フールが口だけ動かして質問してくる。
なかなかに面白い状況だったが、笑うのを堪えて、ケイトも待っているだろうから手短に説明することにした。
「だいたい状況は理解した、フール可愛いからな。 男だけの所に置いて置いたのが間違いだった。 
 だからああ言えばお前に近寄ってくる男もいないだろう。 俺が強いの知ってるだろうし。」
少し、顔つきが変わったフールが口を開く。
「ええ、その通りですが、私を・・・その可愛いと思うなら、そういう気持ちになりませんか?」
そう顔を真っ赤にしながら言うのだが、俺はやっぱり即効で。
「いや、お前子供だし興味無いし。 まあ、そんなことはどうでもいいや。 
 ケイト達の護衛頼みたいんだけど、男の俺は付いていきにくいんでな、頼まれてくよ。」
ポンと肩に手を置く、なんかフールが変な顔をしてるが。
「今、俺の部屋にいるから、頼むよ。 それとフールの状況を伝えて部屋別につくるから。 俺このまま買い物行くからじゃなー。」
もう部屋に戻るのが面倒だった俺はそのまま城下へと走り出した。(もう面倒ごとは勘弁だ。)

「は、ははっ。」
私はカズマが走り去ったのを見てケイト姫の護衛のためカズマの部屋へと歩き出したのだが。
「子供、興味がない。 可愛いって言ったのに。」
実際結構ショックだったのだ。
これでも地元では剣の女神と言われ、色んな男から求婚も受けている。
でも、お爺様為の復興が目的だった為あまり気にしなかったが。
「ああいう、言われかた。 傷つく。 グスン。」
それなりに、自分の人気を自覚していたのだが、それを真っ向から否定され、ショックを受けているのであった。


「お、この肉いいね。 おばちゃんこれ頂戴!!」
「はいよ!! お兄さんいい目利きしてるねぇ。」
「これでも主夫歴あるもんでね。」
なんか平和だー、自分がよく通っていた商店街を思い出す。
「おおっ!! おっちゃんその野菜くれ!!」
「おっしゃ!! 元気がいいな兄ちゃんコイツはオマケだ!!」
次に回ったお店ではリンゴみたいなもの、たぶんリンゴだと思う。
それをオマケで5個ほどもらったのでこれをデザートにと考えていると。
「すいません、退いてもらえますか!?」
なんか後ろから声が聞こえたもので振り返ると。
「うわっ。」
「きゃ。」
女の子らしき声を出した人がぶつかってきた。
実は荷物を結構抱えていて、前が見えなかったりする。
衝撃でいくつか荷物も落としそうになるが堪えた。
「ごっ、ごめんなさい。」
声の持ち主が俺の横に入って顔を見つめてきたのでようやく顔が見れた・・・けど。
「犬耳? はい?」
はい、もう全開でファンタジーですね。
そう、思っているとさらに奥から、まああからさまな悪役がピッタリの人がやってきて。
「このクソ犬!! お前は商品なんだぞ!! 買い手が見つかるまでにまたこんなことしてみろ!!」
その親父はまあそれらしい、ムチを取り出して振り上げると。
「こうだ!!」
予想通りに振り下ろした。
「おっと。」
わざと体制を崩し、荷物をムチの前面だし威力を殺す。
そのせいで袋が破けて中身が散乱する。
「あーあ、オッサンどうしてくれるんだ?」
中には使いものにならなくなった物もある。
荷物を足元に置いてわざとらしく言う。
ちなみに叩かれそうになった子は俺の後ろでビクビク震えている。
「うるさい!! キサマ、そのクソ犬は俺の商売道具だ、さっさとこっちに返せ!!」
さて、コイツをぶっ飛ばすのも簡単だが、それだと後々面倒になるな。
ならば、俺はケイトからもらった昨日の戦で儲けた金を見る。
さて、野菜とか肉の相場があれ位だったから、大体額はギリギリか・・・よし。
適当に犬耳女の子には悪いが奴隷としての値段を考えて。
「この子、俺が買う。」
「なにぃ? キサマ見たいなのが払える額だと思っているのか?」
ヤッパリそう言ってきたので、ある程度袋の中から、食品を買いなおせるぐらいの額を引き抜いてオッサンに投げる。
オッサンは胡散臭そうに地面に落ちた袋を取って中身を見た途端、顔色を変えて。
「これ全部でいいのだな!?」
「ああ。」
袋を握り締めて、その場から去って行った。
「ふう、大丈夫かい?」
後ろを振り向きつつ女の子の体を見ていく、ボロギレみたいな服に露出している肌には痣ばかり。
今も出血している箇所も多々ある、足に至っては靴すら履いていない。
「あ、あのう。」
犬耳の女の子はこちらを覗き込んでくる。
それを見つめ返し名がら、今は治療も出来ないので、上着をかけてあげると、こっちに飛びついてきて
「う、うぁぁぁん。」
泣きはじめた。

「お、大将帰ったかって、なんじゃそりゃ?」
城門前で警備をしていたグリイが俺の背中みて驚いていた。
まあ、それもそのはず、料理の材料買ってくると言って出てきたのに背中に犬耳の女の子抱えてりゃ、俺だって驚く。
まじまじと、後ろの犬耳の子を見つめたあと俺の方を向いて。
「食べるのか?」
「食べるか!!」

「真顔で言うなってーの。 俺は化け物か何かか。」
グリイの反応にブツブツいいながら、デイの居場所を聞き出し、そちらに向かっていると。
「あ、カズマさん。」
稽古場から出てきたのか、少しボロボロな感じでデイがこちらにやってきた。
「おーデイ、ちょっとこの子頼まれてくれないか? あと荷物も。」
後ろに目をやりつつ、デイに言うと。
「ん? どうしたんですか? 獣人族のようですが?」
覗き込むとデイの顔色が変わる。
「ああ、心配するな。 命に別状はないただ眠っているんだが、
 このまま放置しても傷から病気になるケースもあるから治療を頼みたいんだが。
 場所は、俺の部屋使っていいから。」
デイは頷くと背中から犬耳の子を受け取り聞き帰してきた。
「あれ? カズマさんはこれからどうするんですか?」
カズマさんが治療した方が確実でしょうに、と不思議に首をかしげるもんで。
「ほれ、荷物は見ての通り食材でな元気のつくものをあの病気の子達とその子にとおもってな。」
周りの荷物の一つを見せてみるとデイは嬉しそうに笑って。
「はい、料理頑張ってください。」
そういってデイが去ろうとしていたので呼び止めた。
「ちょっと聞きたいんだが、ここら辺で美味しい水が取れる場所ってしってるか? 料理には水が大事でな。」


「ふう、気持ちいいわね。」
私は水に足を半分程つけて体に一糸纏わぬ状態でシャールに話かける。
「ええ、流石緑の清流ですね。」
シャールも同じように裸でこちらを見ながら笑っている。
キュリーはどこかと思っていると少し離れた場所で一人ゆっくりと水で体を洗っている。
大丈夫そうねと思っていると
突然水しぶきが飛んでくる。
「きゃ。」
私は驚いて声を上げると
「きゃははは、お姉ちゃん驚いてるー。」
シルが楽しそうに水をバチャバチャして遊んでいる。
するとシルの後ろから姉のエルが慌ててきて。
「も、申し訳ございません姫様!!」
私より年下なのにしっかり頭を下げる、けど私は。
「いいのよ、だってお姉ちゃんと遊んでるんだもんねー。」
シルに笑いかけると。
「うん!!」
私はエルも交えて水の掛け合いを始めた。

「いいのですか? 私まで入っては護衛にならないのでは?」
フールも皆と同じ様に裸で水に足をつけていた。
シャールはフールを見ると。
「まあ、あくまでの護衛だ。 なにせ、ここは結界が張ってあるからな。 邪な考えを持ってると侵入すら出来んのだからな。」
「そうなのですか。」
「ああ、カズマからお前の話を聞いていたからな、カズマに言えばお前が来ると思っていたのだ。」
フールは驚いたようにシャールを見るとシャール続けて喋りだす。
「同じ様に私と女で頑張っていると聞いたものでな。」
「シャールさん。」
フールは姫様を見つめるシャールの横顔を嬉しくも眺めていると。
横の茂みから物音がした。
「!!」
侵入者、しまった。
シャールさんの話を聞いて気が緩んでいたか。
姫様が危ない。
私は素手のまま姫様の縦となるべく裸のまま水の中を駆けていった。

「え!? 誰っ!!」
私は茂みから物音がした方向へシルとエルを庇いながら見つめていると。
「あ?」
カズマが出てきた。
なんか両手には水を入れる皮袋が握られていて、パンパンに膨らんでいた。
飛び出したフールも私に遅れて向かっているシャールも固まって、キュリーもその場で石と化していた。
一人だけシルが「おにいちゃんだー」と叫んでカズマに向かっていったが。
「「「「「はっ!!」」」」」
私と同じくみんな自分の姿に気がついたのか、体を手で隠し叫ぼうとしたのだが・・・。
カズマは目の前で水の入った袋の栓を開け水をドボドボと捨てながら。
「お前らのだし汁かよー、いらねー。」
などといってきたので。
「「「「「なっ!! なんですってー!!」」」」」
見事に私とシャール、フール、キュリー、エルが叫んだ、体を隠すことも忘れて。
なのにカズマは、
「もうちょっと、上流で汲むべきだなこりゃ。 シルもくるか?」
私達の裸体を一通りみてシルの体を拭きながら、素無視してきやがった。
「「「「「こっこのバカァァァァ!!」」」」」
と見事に緑の清流にユニゾンが響くのであった。


「世界のどこかで」 第四話「束の間の平和 前半」終わり

はい、エーリム将軍はというと。
「キュリー!! どこだキュリー!!」
街中で走り回るオッサンが一人。